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最高裁判所第二小法廷 昭和34年(オ)301号 判決

上告人 鈴木[禾農]

被上告人 青森地方法務局長

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

本件上告理由は別紙のとおりである。

論旨は、昭和三一年七月九日登記官吏が職権によつてした本件仮登記抹消までの経過を述べ、右抹消の違法を主張するのであるが、原判決も説明するように、昭和二七年八月法律三〇六号による地方自治法の改正前においては、久六島のようにいずれの都道府県の区域にも属しなかつた土地を市町村の区域に編入することは都道府県の境界変更になるので地方自治法六条一項により法律をもつて定めることを要したものと解すべく、従つて昭和二六年九月二八日青森県告示にかかる久六島を深浦町の区域に編入する処分は無効といわなければならない。従つて昭和二七年一月本件仮登記の当時においては、久六島を管轄する法務局、地方法務局又はその支局、出張所は存在しなかつたのであつて、青森地方法務局深浦出張所は上告人の仮登記申請があつても、不動産登記法四九条一号に基き却下しなければならなかつたのである。従つて右申請を受理し登記を完了した後においても、登記官吏は同法一四九条ノ二乃至五により職権をもつて抹消すべく、右抹消を是認した原判決に、所論のように法律の解釈を誤つた違法はない。なお論旨は、法務局出張所の管轄権の有無は判決時をもつて定めるべき旨を主張するのであるが、昭和三一年九月一五日に久六島は深浦町に編入され、右深浦出張所が久六島を管轄するに至つたとはいえ、本件仮登記当時は勿論抹消当時においても右管轄権がなかつたのであるから、適法に抹消された後に管轄権が生じたからといつて本件抹消を違法とすべき理由はない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤田八郎 池田克 河村大助 奥野健一 山田作之助)

上告代理人内野房吉の上告理由

法律解釈の違法

(1)  本件久六島に付明治廿四年九月廿二日官報二、四七一号を以て青森県の地籍に編入し、青森県は西津軽郡深浦村の地域として鯵ケ沢区裁判所深浦登記所に対し、大字炉作字久六島無番地として所有権保存登記を経由したものであるが、(久六島台帳と称する表紙のみ現存する)翌廿五年頃青森県知事は大蔵省の訓令に基き、出没常ならぬ岩礁にして島嶼に非ざる旨を指摘し右所有権保存登記を抹消し、所有権を放棄したけれども久六島は依然深浦村の地域内たる大字炉作字久六島たる事実は失はれていない。

従て登記に関する事項は前記深浦登記所の管轄に属することに変りはないと信ずる。

(2)  青森県は右の如く久六島の所有権を失いたるものの、西海岸唯一の漁場として絶対的必要性を有するので同島を中心とする水域を占有し、その主導的立場に於いて青森県七、秋田県三の割合により沿岸漁民に対し漁業権を認可し来つたものである。

昭和廿六年十月に至り青森県、秋田県ともにこの久六島を漁場中心地として重要視し、その帰属に関し紛争を生じ両県議会ともに政治的解決を為さんと欲し、内閣その他関係官署に対猛運動を為したが、ともに成らず所詮その帰属を定めることなく、そのまま放置するの現状に在つたものである。

そこで上告人は青森県下深浦町地域内に所在する岩礁に対する所有権を取得し、昭和廿七年一月七日受附第三号を以て島嶼とし青森県西津軽郡深浦町大字炉作無番雑種地二畝廿五歩の所有権保存登記請求権の仮登記を経由したものである。

(3)  青森地方法務局深浦出張所登記官吏大橋豊男は青森、秋田両県の政治紛争、自治庁、法務庁等の圧迫に堪えず、上告人に対し甲一ノ一、二、三の書面を寄せ苦慮しいたりしが、後任者安田長之進は昭和卅一年七月九日前記仮登記原因の無効を独断し(繋争中)登記の抹消登記を為したものである。

昭和三一、 六、 四 異議あらば申立てよとの通知

〃 三一、 六、一八 異議申立

〃 三一、 七、 九 却下決定、同時仮登記を抹消

〃 三一、 七、一六 右決定に対し青森地方法務局長へ異議申立

〃 三一、 八、二五 却下決定

〃 三一、一二、一五 右決定に対し青森地方裁判所へ訴提起

爾来、控訴、上告して繋争中であるが、叙上深浦出張所のなした却下の決定は未確定のものであるから、前記抹消登記手続は違法のものである。

右抹消登記の抹消(行政処分ではない)を求め回復を求める所以である。

一審青森地方裁判所、二審仙台高等裁判所は此の意味を解せず請求権がないと判断しているが、登記の抹消すべからざるものを抹消した場合、この抹消に対する無効を主張して回復を求めることは裁判所の管轄に属せず、裁判所は行政庁へ作為、不作為を命ずることは許されないとして排斥することは法律解釈の違法たるを失はない。

(4)  久六島は明治廿四年所属を決定し前述の如く深浦町(元深浦村)を管轄する鯵ケ沢区裁判所深浦登記所(現在青森地方法務局深浦出張所)へ青森県西津軽郡深浦村大字炉作字久六島無番地として所有権保存登記を為したが、翌廿五年所有権の抹消登記を経由し所有権の放棄を為したけれども、その地域は事実として厳然として存し深浦村に在るを以て、これを放棄するということはあり得ない。

従つてその管轄は現在深浦町を管轄する前記深浦出張所に在るものと謂うべきであるが、内閣総理府は昭和廿八年十月五日附告示一九六号を以て久六島に対し、

昭和二八、一〇、一五 青森県の地域に編入

〃 三〇、 八、一一 深浦町議会は「大字久六字久六」と設定決議

〃 三〇、 八、一七 青森県議会は「深浦町へ編入」決議

かくの如く関係官署共謀の上お膳立を為し、青森地方法務局関係に於いては前記(3) に説述した経過に於いて仮登記を抹消したものであるが、深浦出張所が昭和三一年六月四日上告人に対し通知を発する以前叙上の事実を知り、既にその管轄権を有するに至るものなることを知つていたものである。

深浦出張所は諸官署と打合せの結果殆ど形式的に通知を発し、異議申立を却下し、更に青森地方法務局長は此の却下に対する異議申立を却下したのであるが、内閣はこれをまつて昭和卅一年九月十五日右編入処分は九月二十日から効力を発する旨の告示を為したものである。

凡て之は関係官署のお膳立て通り計画を進め、権力を以て上告人の仮登記を抹消し私権を奪つたものである。

登記は第三者に対抗するため之を為す手続で決して行政処分そのものでなく、この登記と実体的権利(所有権保存登記請求権)と一致すれば足るものであるから前記管轄の問題と之等の経過を辿つた管轄権の問題とを考究すれば、中途に於ける形式的違法、錯誤は問うところに非ず、従つて登記抹消については処分時を基準とすべきでなく裁判確定時に於いてその管轄の有無を決すべきものであると信ずるものである。

此の点原審裁判には法律の解釈を誤りたる違法あるものである。

(5)  上告人が為した保存登記請求権の保全のため仮登記を為したのは

西津軽郡深浦町大字炉作字久六島無番地

一、雑種地 二畝廿五歩

建設省名義に保存登記を経由したのは

西津軽郡深浦町大字久六字久六一番地

一、雑種地 三畝 五歩

同所 二番地

一、雑種地 廿三歩

同所 三番地

一、雑種地 廿三歩

であるが、計画的に地名を変更したのであるが深浦町の地域内であることは変りない。

上告人の保全登記を抹消しやがて為さるべき所有権保存登記の本登記を奪うべく、官僚的な法令規則をほじくりまわし前叙の経過に於いて権力を以て仮登記の抹消をなし次で前記の如く国が所有権保存登記を為すに至つたものである。

前叙の如く久六島は深浦町の地域内にあること、その後の深浦町議会がその地域を設定する決議を為したことによつて明かな如く管轄を設定するため、かくの如き諸手続は毫も必要でないものである。

要は登記事項に関する(行政処分では出来ないもの)ことは最終弁論までにその管轄を有すれば足りるものなりと信ずる。

而も国が前叙の如く地名、地番、面積等変つた登記をするとせば全く上告人の登記と変つたものであるから何を苦しんで前叙のような諸手続をする必要ないものである。

何か含むところあるから叙上の如き難解な諸手続をしたように思はれる。

元来久六島に対する当時の国の見解は深浦内の出没常ならぬ岩礁なりとし領土外においたもので、領土としての国際的宣言もないものである。

本件の場合人的に先づ上告人が所有権を取得し、その後に於いて国が領土たる宣言をなすべきものである。

法律の解釈を誤りたる違法であると言うべきである。

上告人 鈴木[禾農]

被上告人 青森地方法務局長

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

本件上告理由は別紙のとおりである。

論旨は、昭和三一年七月九日登記官吏が職権によつてした本件仮登記抹消までの経過を述べ、右抹消の違法を主張するのであるが、原判決も説明するように、昭和二七年八月法律三〇六号による地方自治法の改正前においては、久六島のようにいずれの都道府県の区域にも属しなかつた土地を市町村の区域に編入することは都道府県の境界変更になるので地方自治法六条一項により法律をもつて定めることを要したものと解すべく、従つて昭和二六年九月二八日青森県告示にかかる久六島を深浦町の区域に編入する処分は無効といわなければならない。従つて昭和二七年一月本件仮登記の当時においては、久六島を管轄する法務局、地方法務局又はその支局、出張所は存在しなかつたのであつて、青森地方法務局深浦出張所は上告人の仮登記申請があつても、不動産登記法四九条一号に基き却下しなければならなかつたのである。従つて右申請を受理し登記を完了した後においても、登記官吏は同法一四九条ノ二乃至五により職権をもつて抹消すべく、右抹消を是認した原判決に、所論のように法律の解釈を誤つた違法はない。なお論旨は、法務局出張所の管轄権の有無は判決時をもつて定めるべき旨を主張するのであるが、昭和三一年九月一五日に久六島は深浦町に編入され、右深浦出張所が久六島を管轄するに至つたとはいえ、本件仮登記当時は勿論抹消当時においても右管轄権がなかつたのであるから、適法に抹消された後に管轄権が生じたからといつて本件抹消を違法とすべき理由はない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤田八郎 池田克 河村大助 奥野健一 山田作之助)

上告代理人内野房吉の上告理由

法律解釈の違法

(1)  本件久六島に付明治廿四年九月廿二日官報二、四七一号を以て青森県の地籍に編入し、青森県は西津軽郡深浦村の地域として鯵ケ沢区裁判所深浦登記所に対し、大字炉作字久六島無番地として所有権保存登記を経由したものであるが、(久六島台帳と称する表紙のみ現存する)翌廿五年頃青森県知事は大蔵省の訓令に基き、出没常ならぬ岩礁にして島嶼に非ざる旨を指摘し右所有権保存登記を抹消し、所有権を放棄したけれども久六島は依然深浦村の地域内たる大字炉作字久六島たる事実は失はれていない。

従て登記に関する事項は前記深浦登記所の管轄に属することに変りはないと信ずる。

(2)  青森県は右の如く久六島の所有権を失いたるものの、西海岸唯一の漁場として絶対的必要性を有するので同島を中心とする水域を占有し、その主導的立場に於いて青森県七、秋田県三の割合により沿岸漁民に対し漁業権を認可し来つたものである。

昭和廿六年十月に至り青森県、秋田県ともにこの久六島を漁場中心地として重要視し、その帰属に関し紛争を生じ両県議会ともに政治的解決を為さんと欲し、内閣その他関係官署に対猛運動を為したが、ともに成らず所詮その帰属を定めることなく、そのまま放置するの現状に在つたものである。

そこで上告人は青森県下深浦町地域内に所在する岩礁に対する所有権を取得し、昭和廿七年一月七日受附第三号を以て島嶼とし青森県西津軽郡深浦町大字炉作無番雑種地二畝廿五歩の所有権保存登記請求権の仮登記を経由したものである。

(3)  青森地方法務局深浦出張所登記官吏大橋豊男は青森、秋田両県の政治紛争、自治庁、法務庁等の圧迫に堪えず、上告人に対し甲一ノ一、二、三の書面を寄せ苦慮しいたりしが、後任者安田長之進は昭和卅一年七月九日前記仮登記原因の無効を独断し(繋争中)登記の抹消登記を為したものである。

昭和三一、 六、 四 異議あらば申立てよとの通知

〃 三一、 六、一八 異議申立

〃 三一、 七、 九 却下決定、同時仮登記を抹消

〃 三一、 七、一六 右決定に対し青森地方法務局長へ異議申立

〃 三一、 八、二五 却下決定

〃 三一、一二、一五 右決定に対し青森地方裁判所へ訴提起

爾来、控訴、上告して繋争中であるが、叙上深浦出張所のなした却下の決定は未確定のものであるから、前記抹消登記手続は違法のものである。

右抹消登記の抹消(行政処分ではない)を求め回復を求める所以である。

一審青森地方裁判所、二審仙台高等裁判所は此の意味を解せず請求権がないと判断しているが、登記の抹消すべからざるものを抹消した場合、この抹消に対する無効を主張して回復を求めることは裁判所の管轄に属せず、裁判所は行政庁へ作為、不作為を命ずることは許されないとして排斥することは法律解釈の違法たるを失はない。

(4)  久六島は明治廿四年所属を決定し前述の如く深浦町(元深浦村)を管轄する鯵ケ沢区裁判所深浦登記所(現在青森地方法務局深浦出張所)へ青森県西津軽郡深浦村大字炉作字久六島無番地として所有権保存登記を為したが、翌廿五年所有権の抹消登記を経由し所有権の放棄を為したけれども、その地域は事実として厳然として存し深浦村に在るを以て、これを放棄するということはあり得ない。

従つてその管轄は現在深浦町を管轄する前記深浦出張所に在るものと謂うべきであるが、内閣総理府は昭和廿八年十月五日附告示一九六号を以て久六島に対し、

昭和二八、一〇、一五 青森県の地域に編入

〃 三〇、 八、一一 深浦町議会は「大字久六字久六」と設定決議

〃 三〇、 八、一七 青森県議会は「深浦町へ編入」決議

かくの如く関係官署共謀の上お膳立を為し、青森地方法務局関係に於いては前記(3) に説述した経過に於いて仮登記を抹消したものであるが、深浦出張所が昭和三一年六月四日上告人に対し通知を発する以前叙上の事実を知り、既にその管轄権を有するに至るものなることを知つていたものである。

深浦出張所は諸官署と打合せの結果殆ど形式的に通知を発し、異議申立を却下し、更に青森地方法務局長は此の却下に対する異議申立を却下したのであるが、内閣はこれをまつて昭和卅一年九月十五日右編入処分は九月二十日から効力を発する旨の告示を為したものである。

凡て之は関係官署のお膳立て通り計画を進め、権力を以て上告人の仮登記を抹消し私権を奪つたものである。

登記は第三者に対抗するため之を為す手続で決して行政処分そのものでなく、この登記と実体的権利(所有権保存登記請求権)と一致すれば足るものであるから前記管轄の問題と之等の経過を辿つた管轄権の問題とを考究すれば、中途に於ける形式的違法、錯誤は問うところに非ず、従つて登記抹消については処分時を基準とすべきでなく裁判確定時に於いてその管轄の有無を決すべきものであると信ずるものである。

此の点原審裁判には法律の解釈を誤りたる違法あるものである。

(5)  上告人が為した保存登記請求権の保全のため仮登記を為したのは

西津軽郡深浦町大字炉作字久六島無番地

一、雑種地 二畝廿五歩

建設省名義に保存登記を経由したのは

西津軽郡深浦町大字久六字久六一番地

一、雑種地 三畝 五歩

同所 二番地

一、雑種地 廿三歩

同所 三番地

一、雑種地 廿三歩

であるが、計画的に地名を変更したのであるが深浦町の地域内であることは変りない。

上告人の保全登記を抹消しやがて為さるべき所有権保存登記の本登記を奪うべく、官僚的な法令規則をほじくりまわし前叙の経過に於いて権力を以て仮登記の抹消をなし次で前記の如く国が所有権保存登記を為すに至つたものである。

前叙の如く久六島は深浦町の地域内にあること、その後の深浦町議会がその地域を設定する決議を為したことによつて明かな如く管轄を設定するため、かくの如き諸手続は毫も必要でないものである。

要は登記事項に関する(行政処分では出来ないもの)ことは最終弁論までにその管轄を有すれば足りるものなりと信ずる。

而も国が前叙の如く地名、地番、面積等変つた登記をするとせば全く上告人の登記と変つたものであるから何を苦しんで前叙のような諸手続をする必要ないものである。

何か含むところあるから叙上の如き難解な諸手続をしたように思はれる。

元来久六島に対する当時の国の見解は深浦内の出没常ならぬ岩礁なりとし領土外においたもので、領土としての国際的宣言もないものである。

本件の場合人的に先づ上告人が所有権を取得し、その後に於いて国が領土たる宣言をなすべきものである。

法律の解釈を誤りたる違法であると言うべきである。

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